「ふつう」
「ふつう」
の生活はまだ遠い
引っ越してしばらくは、ふつうのことがなかなかふつうにできなかった。
とりあえず住みはじめたものの、各部の機能を熟知して、使いこなせるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだった。
入居したその日から、日常生活がスムーズに再開できるわけではなく、
「家に慣れる」
というプロセスが必要なのだ。
例えば、魚を焼くことも。
新居のレンジは、調理台にはめ込み式で、引き出す形の魚焼き用グリルはない。
あるのは、鶏の丸焼きができそうな、四十センチ四方くらいのオーブン。
魚を焼くときは、トレイを上段に入れ、上の火だけを点けるようだ。
入居して二日め、試しにひねってみたところ、点火しない。
これが賃貸のときならば、大家さんに電話し、
「あのう、どこどこの調子が悪いんですけど」
と相談すれば、修理の人をすぐに派遣してくれた。
が、これからは、トラブルが生じるたびにひとつひとつ、自分で直接業者に連絡しなければならない。
どこに頼むのか、それからして調べなければ。
その日は、他にもいくつか、防犯センサーが作動しない、蛇口のお湯がなかなか温かくならないなど、解決すべき問題がみつかったので、次の朝、購入のときの担当者、夕ナカ氏に電話をし、何はどこの管理事項になるのか、聞いてみた。
「防犯センサーは管理会社で、湯沸かし器は東京ガスで、レンジの方はメーカーでしょうね」
とのこと。
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